『  春 や 春  ― (3) ―  』

 

 

 

 

 

 

   カタン  ―  リビングのドアが開いた。

 

「 おはよう ・・・ うん? 

アルベルトは 取ってきた朝刊をくるり、と回した。

「 ・・・ ワカモノたちはまだ寝ているのか ・・・ お? 」

リビングからキッチンにかけて きちんと片付いている。

朝には誰かの姿が行き来しているキッチンも なぜか静寂が支配しているのだ。

 

      ほう ・・・? ごたごたしているのが ここの魅力なんだが・・・

 

「 ま 青春はお疲れってことか ・・・  うん? 

コーヒーでも淹れるか・・・と キッチンに入り 冷蔵庫に留まっているメモが

目に入った。

「 はあん?  ・・・ ほう〜  ・・・

 ま 二人とも < 本気 > になったってことだな。 」

 ふんふん〜〜〜 ♪  彼はハナウタを歌いつつ冷蔵庫を開け

サンドイッチと冷えたオレンジを確認した。

「 ふふん ・・・ では とびきり美味い珈琲を淹れるか。

 オトナの朝食の時間だ。 」

 

     博士、 アルベルト ピュンマ

     おはようございます。  

     朝食のサンドイッチとオレンジは冷蔵庫です。

 

     早出しますので よろしくお願いします。

     いってきます〜

 

     フランソワーズ    

 

     P.S. 牛乳、足りるかなあ・・・ ジョー

 

ひらり。 伝言メモ が冷蔵庫の壁で踊っていた。

 

    カタン。

 

「 おはようございます。  あれ? アルベルトだけかい 」

ばっちりスーツに身を固めたピュンマが ゆっくりと入ってきた。

「 おう おはよう。  おう 仕事か? 」

「 ウン。 朝イチからなんだ〜〜  昨夜 博士から緊急追加モジュールを

 もらって 助かったよ 

彼は に・・・っとわらって自分の耳を指した。

そこには一見 イヤホンに見える小さな機器を指した。

「 ほう? 早速対応か すごいなあ ウチの爺様は 」

「 ふふふ ・・・ イッキに経済用語を詰め込んだよ。 」

「 あれ 皆は?  もう 出たのかな 」

「 ああ お嬢さんはもうお出かけだ。

 博士は 散歩らしい。 」

「 ふうん  それじゃ僕も張り切ってゆくよ! 」

「 おう。 朝食、ちゃんと準備してあるぞ。  ほい。 

 コーヒーはもうすぐはいる。 」

 

  コトン。  サンドイッチと冷たいオレンジの皿が置かれた。

 

「 わ サンキュ。  〜〜〜〜 うま〜〜  この国のフルーツは

 めっちゃ美味いねえ 

「 ああ 若干 スウィーツに近いがな 

「 んん〜  ジョーは? まだ寝てるのかい 

「 いや 博士の散歩にくっついて行ったらしい。 

「 へ ・・・え?  まあ頑張れ 頑張れ。

 アルベルト きみの予定は? 」

「 ・・・ 都心の楽譜屋 と 音楽事務所に顔を出してくる。 」

「 お? CD出す とか? 」

「 あ〜〜 いや フランソワーズから 頼まれな

 バレエのレッスン用のCDを 作ることになりそうだ。

 クラシックだけでなく ジャズ風味も取り入れてみる。 」

「 へえ??  新分野開拓 だねえ  」

「 ま いろいろやってみようと思ってな 

 ちょいとな フランソワーズに舞台の話を聞いてて ヒントもらった。」

「 そうなんだ〜〜  たまには < 我が家 > に帰ってみるのも

 いいよね。  僕はここにいる間に本格的に翻訳機のバージョンアップするよ 」

「 ほう? 」

「 うん。 僕の仕事になるなって思ってさ。 通訳。

 それと国に帰ってから 大学に日本語講座の開設をめざすよ。

 後進を育てないとね〜 」

「 いいな 応援してるぞ 

「 サンキュ。 ふふ ジョーと話、しててさ ・・・

 ワカモノへのしっかりした教育は必要 だと思うし。 」

「 だ な。 アイツは博士の散歩にくっついていったらしい 」

「 へえ〜〜〜 ・・・ まあ がんばれ〜〜ってとこだね。

 さあ 美味しそうな朝ごはんをいただこうかな〜 」

「 ほい 淹れたてだ。 」

  コトン。  湯気のたつカップが ピュンマの前に置かれた。

「 うわ〜〜〜 サンキュ。  アルベルト、君の淹れたのが 一番美味いよ 」

「 なんもでんぞ 」

「 これで十分。 」

二人は にんまり・・・ しずかな朝の時間を楽しんでいた。

 

 

 さて 少し時間は遡る。

 

  こつ こつ こつ ・・・

 

まっさらな日の光をうけ 老博士は背筋を伸ばす。

「 ああ ・・・ いい気分だ ・・・ 朝陽は いい ・・・

 しっかりと心を試されている気がするなあ 」

博士は 確実な足取りで急坂を下りてゆく。

 

  ひゅるん 〜〜  早朝の冷えた風が頬をうつ。

 

「 ふ ・・・ ああ 負けんぞ。 ワシはワシの信念を貫く。 」

坂を下り切ったところで 博士は海原に視線を向ける。

「 ・・・ ここの海は いつも温かい色だな ・・・・

 暮らす人々も 土地も温かい ・・・ よいところじゃなあ  」

 

    タッ タッ タッ 

 

威勢のいい足音が追ってきた。

「 博士〜〜〜  ご一緒してもいいですか 」

「 ん?  ジョーかい  もちろんだよ   

「 えへ ・・・ ありがとうございます 

 ひゃ〜〜〜  いい天気っすねえ 

「 うむ  ・・・ どうした なにかあったのかい 

「 え??  な なんで ですか? 」

「 いや ・・・ ジョー、お前が早朝散歩に出てくるとは

 珍しいなあ と思ったのでな 

「 あっは〜〜  いえ その ・・・ 早起きもいいなあ〜って ・・・

 あ 博士 あの ですね  

「 うむ? なにかね 

「 あの! ぼく ・・・ こう思うのですが。 

 この考え方は 可笑しいですか 

「 ? あ ああ? 

ジョーはいきなり 滔々と < 児童福祉について > の

彼自身の 意見 を述べ始めた。

「 ? ・・・・ 」

博士は 怪訝な顔をしつつもちゃんと耳を傾けてくれた。

「 ・・・  で いえ よって ですね このように変革する必要性を

 強く感じているのです けど 

「 うむ そうか。 ― それで? 」

「 で   ・・・ え〜〜と 博士のご意見を そのう・・・

 伺いたくて 

「 ふむ ・・・ 現状分析とそれに対する君の考えは わかった。

 では それを実現するにはどうしたらいい ? 」

「 ・・・ はへ ・・?? 」

ジョーは 鳩が豆鉄砲 の顔だ。

「 具体的に聞こう。 実現するために ― 予算はどうする?

 なにごとも ― どんなに有益で正しいことも

 平たく言えば 金がないとなにもできんのだぞ  

「 ・・・ あ〜〜 そっかあ〜〜〜 そうですよねえ 」 

「 君の提言はわかった。 なかなかよく調べ 現状を調べておるな。

あとは 実現化の問題だ。 

「 はあ ・・・ 」

「 その点についての提言まで書ければ  立派なレポートになる。 」

「 はあ ・・・ え? な なんで知ってるんですか〜〜〜 」

「 いや 君がこの前からあれこれ試行錯誤しつつ 

 なにか書いているのを見ておるからな 」

「 え えへへ・・・ あ〜 なんかお見通しだなあ 」

「 頑張りたまえ。  うむ なかなかいい点に着目しておるよ 」

「 あ そ そうですか?  でも ・・・ う〜〜ん ?

 こういうのって 初めてなんで 」

「 ほう?  君の国の教育制度はかなり整っている、と聞くが 」

「 あ う〜〜ん    きみの意見は?  なんて聞かれませんでした。

 そっか〜〜 う〜〜ん 」

「 ま 今 学んでよかったな。 社会人としては必須なことじゃよ 」

「 はい。  う〜〜 やること 多過ぎて大変です 〜 」

「 ははは 若い間じゃよ  それに対応できるのも なあ 

博士は ふと足を止めると海原の方に向いてたった。

「 ワシは なあ  ジョー 」

「 はい? 」

「 最近つくづく思うよ・・・ どんなに優れたデータを大量に送り込んでも

 それを有用に使い熟すのは  ニンゲンなのだ と。  」

「  はあ ・・・ 」

「 全てのAIは ニンゲンによって初めて価値がでる。 

 ワシは やっとそのことに気づいたのさ 

「 博士 ・・・ 」

「 ワシは 諸君らの最高のサポートをどんどん更新してゆく。

 それがワシに残された課題さ 」

「 ・・・ 博士 ! 」

「 負けんぞ、ジョー。  お前もお前の進みたい道を迷わず進め。

 そのためにはどんな援助もワシは惜しまんからな 」

「 はい。  皆 喜びますよ 」

「 ふふん ・・・ ピュンマはもう新しい分野に乗りだしている。

 アルベルトもなにかみつけたようだぞ 」

「 そうですよね〜〜  ぼく やるぞ ! 」

「 ふふふ 頼もしいのう  ・・・ おおそういえば フランソワーズは 

 どうしたね? 」

「 あ〜〜 昨夜も遅くまで地下のレッスン室で練習してましたよ。

 ぼくも DVD見たけど ・・・ あの作品はすごいですね 」

「 うむ ・・・ どの世界にもちゃんと天才はいる ということさ。

 さあ〜〜 ゆくか 」

「 はへ?? 」

博士は くるり、と振り返り目の前に聳える急な坂を指した。

「 ワシは毎朝ここを 駆け上るのを日課にしておるんじゃ 」

「 ひぇ〜〜〜  マジっすか 」

「 ああ。 脚が弱ったら 身体もそして正しい判断も鈍る。

 お前は 後から追いかけてこい  

 

  ザザ ・・・   博士は意外にも? 軽快なフットワークで走っていった。

 

「 ひ え 〜〜〜〜  こ ここを 走って登る??

 あ あの年齢で 〜〜  博士 博士〜〜〜〜気をつけてください〜〜〜 」

ジョーは 慌てて後を追って駆けだした。

 

 

 

 

    カツン カツン  カツ !

 

彼女しかいないレッスン室に ポアントの音が響く。

「 〜〜〜〜 っと  あ ・・・ もう 〜 どうしてもココ・・・

 わたし 遅れるわ 

スマホを取りだし もう一度、 映像で確認する。

「 ・・・ そっか  きっちり 踏む のね 

 

   カツカツ  カツ ・・・

 

アレグロのステップをやり直す。

「 う〜〜  ゆっくりやればできるんだけど う〜〜  

 

  カタン  ― ドアが開いた。

 

「 頑張っているわね フランソワーズ 」

マダムが ひょっこり、顔を覗かせた。

帽子を被りバッグを片手・・・なので 帰宅途中なのだろう。

「 あ  先生 ・・・ 」

「 楽しみにしてるからね、 貴女の 『 Wild Fire  』 」

「 ・・・ む ムズカシイです〜〜〜  

「 ふふふ 当然よ、 そう簡単には踊れないわよ ふふふ  」

「 はい ・・・ 

「 こうやって努力するの すごく貴女にプラスになるからね 」

「 はい ・・ ・・・ あ あのう ・・・ 

「 なあに 」

「 あの ・・・ちょこっと 伺ってもいいですか 」

「 あら なにかしら  

「 はい  あの ・・・ この作品について なんですけど 

 

フランソワーズは タオルで汗を拭い、彼女の < 師匠 > を

見つめた。

 

「 え?  あ〜 ・・・ そうねえ   

マダムは ちょっと言葉を選んでいる様子だった。

「 これは ― 永遠に続く 命 かしら。

 野原を燃やす火 でも やがてそこには次の生命が生まれるの。 」

「 野原の火 ですか 

「 そうよ。  枯草を燃やし それを肥料として新しい芽が

 育ってゆくの 」

「 ・・・・ 」

「 ・・・ ねえ。 私が死んでも作品は残るわ。 だから しっかりこの振りを

この作品のコンセプトを 受け継いでちょうだい 」

「 え ・・・ 」

「 貴女もわかったでしょう?                DVDじゃ あの雰囲気は 

 わからないでしょ 

「 はい!  リハの初日 ・・・ 目が覚めました 」

「 うふふ だから あの雰囲気を伝えていってほしい。

 そのためにね 再演のたびに一人は新人に頼むの。

 次の世代に渡してほしいから 

「 ・・・ はい 

「 まあね〜〜 新人が泣くのは 毎回恒例。

 今のメンバーも 初回は皆 泣いたから  

「 ・・・・・ 」

「 泣いてもいい。  泣いて 学んでほしいの 」

「 ・・・ は はい ・・・ 」

フランソワーズは タオルを固く握りしめてた。

 

「 ねえ 私も聞いていいかしら 」

「 はい? 」

「 ・・・ これは 以前にもアナタに聞いたけど ・・・

 アナタ、本当によく似ているの。  わたしの憧れだった先輩に ね。

 若い頃 初めてフランスのバレエ学校に留学して その人は最上級生で ・・・

 もちろん口をきいたことなんかなかったわ。

 憧れのヒトだったの。  フランソワーズ、アナタを始めて見たとき

 本当におどろいた・・・ そっくりなんだもの。 

 ええ 私の憧れのヒトよ。 彼女みたいに踊りたいって 思ってたわ。

 今も 思っているの。 」

「 ・・・・・・ 」

フランソワーズは なにも応えることができず ただただ  涙を

流していた。

「 あら〜〜 泣かせちゃった?

 あは おばあちゃんの昔話 なんて < うざい > んでしょ?

 ごめんなさいね〜〜 」

「 ・・・・・ ! 」

フランソワーズは黙って首を横に振り続けていた。

「 あなたの 『 Wild Fire 』 楽しみにしているわ。 」

「 はい 先生。 

フランソワーズは顔を上げ かっきりとマダムをみつめ応えた。

 

   ・・・  !  本当のわたし を 覚えていてくれる人  ・・・

   踊るわ!  わたし。

 

       カツン カツ カツ ・・・ !

 

彼女の踊りに 強い意志が入った。

 

 

 

「 ただいまあ〜 

夕方 ジョーが帰ってきた。

「 食糧 買ってきたよぉ〜 

「 わぁ  ありがとう〜〜 助かっちゃう♪ 」

「 力仕事はぼくがやるって。 あ ・・・でもさ 適当に

 美味しそうだな〜〜って思って買ってきちゃったから・・・

 君、 気に入るかなあ  」

「 え〜〜 どれどれ? 」

「 えっとぉ 」

ジョーは玄関先でレジ袋を 開陳した。

「 あ チキンとこれは ポークね? 美味しそう〜〜〜

 あ お魚 !  これは なあに 」

「 あは ぼくも魚は捌けないから 切り身 買ってきた。 

 サーモンと鱈 ・・・ これはね〜 イカ 

「 ・・・ イカ?  いつか・・・深海で出合った アレ? 」

「 あは あ〜〜んな化け物じゃないよ。 煮付けると美味しいよ 」

「 ふうん ・・・ あ こっちはお野菜ね うわあ カラフルでおっきいな〜

 ・・・ これ  ピーマン ? 」

「 パプリカさ  ちょっと甘くてオイシイよ〜〜  サラダとかするとキレイじゃん? 」

「 そうね そうね  ・・・ これは なあに。 」

「 だいこん。  煮付けにしたり 下ろしたするんだ、オイシイよ。

 千六本にしてアゲと一緒に 味噌汁にするとウマイ〜〜〜 

「 ふうん ・・・ 初めてみるわ。  あ このセロリ〜〜 元気でいいわね 

「 フラン、きみセロリ好きだろ?  トマトに〜 レタスに〜 キュウリ〜

 あと ・・・ こっちは玉ねぎ じゃがいも 人参 ! 」

「 わ〜〜〜たくさんありがとう!  

 ・・・ ごめんなさいね 買い物 頼んじゃって 」

「 なんで? 今 きみは忙しいんだもの。 当然だろ 

「 でも ジョーだって勉強、大変でしょ 」

「 いいって。  毎晩 遅くまで練習してるの、知ってるもん 」

「 ・・・ あは ・・・ わたし ヘタだから 

「 ・・・・ 」

ジョーは ちょこっと腫れぼったい眼をした彼女をじっと見た。

「 フラン ― 泣きごとなら ぼく 聞くよ? 」

「 ・・・ ジョー ・・・ 」

「 頼りないし 専門的なことは全然わかんないし・・・

 でもさ 聞く ことはしっかりできる。 

「 ジョー ・・・ ! 」

ぽろり。 大粒の涙がこぼれた。

「 あ あのさ   それで・・・ぼくも 聞いてほしいんだ  」

「 ごめんなさい、 自分のことでいっぱいだったわ わたし 」

「 ぼくも同じさ  でもさ〜 < 家族 > なんだもん

 聞き合いっこ しようよ  」

「 聞き合いっこ? 

「 そ。 辛いことは 溜めこまないで 言っちゃう。

 言われたらちゃんと聞く。 そんで 自分のコトも言っちゃう 」

「 あ それ いいわあ〜〜 うふふ・・・

 ね ジョーって 愉快なヒトなのねえ 」

「 あ ・・・ そ そう 」

ジョーは 嬉しそうだったけどちょぴっと拍子抜けしたみたいな顔だった・・・

 

 

「 これからさ 来日する機会、増えると思うんだ。 

 博士〜 ジョー フランソワーズ よろしく頼みます 」

ピュンマは爽やかな笑顔を残し 帰国していった。

「 ピュンマ 凄いなあ〜〜  国の指導者の人たちの通訳かあ 」

「 うむ ・・・ いろいろ大変じゃろうな。 」

「 博士、 でも彼はやりますよ。 」

「 ふふ ワシもそう思う。 自動翻訳機のバージョンを最高レベルにし

 経済用語もばっちりだ。 」

「 博士〜〜〜 凄いのは博士ですよ 

「 はは ワシはなにもしておらんよ。

 ただデータを提供しただけさ。  どう使うか は諸君ら自身だ 」

「 ・・・ う ・・・ 耳が痛い ・・・ デス 」

「 君もなかなか頑張っておる、とコズミ君が目を細めておったぞ 」

「 え ! そ そうですか〜〜   ・・・ へへ ・・・ うれし・・・ 

 あ アルベルト 新しいCD出しましたね 」

「 うむ うむ ・・・フランソワーズが 自習用に・・・ と

使っておったら あの先生がえらく興味を持たれたとか聞いたぞ  

「 すご〜〜い〜〜〜 」

「 とりあえず フランソワーズの舞台を楽しみにしようではないか 」

「 はい! 当日は ぼくが車で送りますからね〜〜 」

 

 

  ― さて フランソワーズの本番の日

 

彼女は朝一番に出かけていった。

ジョーは博士、アルベルト そして グレートを車に乗せ

開演のかなり前に 劇場に到着した。

 

「 え・・・っと?  楽屋口は ・・・ 」

「 ああ こっちだ。  以前 演劇の舞台を観にきたことがあるぞ 

グレートが先に立って皆を案内した。

 

「 ん〜〜〜 あ ここだ、ここがフランたちの楽屋だ 」

ドアに貼ってある紙で名前を確かめ ジョーは ものすご〜〜く

真剣な顔で ノックした。

「 入ってもいいですか   あの  ふ  ふらんそわーずさん お願いします 」

「 どうぞ〜〜〜〜 」

さっとドアが開いて ( ジョーから見れば ) < 目が点 > ものの

化粧をした女性が現れた。

「 !? あ  あの〜〜 」

「 ジョー!  まあ 博士 アルベルト グレートも〜〜 」

分厚い付け睫の奥で 見慣れた碧い瞳が笑っている。

 

   ・・・ あ  ああ フランかあ ・・・ よかった・・・

 

国に帰っているピュンマからは楽屋にメッセージが届いていた。

アルベルトとグレートが 博士と共に 真っ赤な薔薇の花束をささげた。

 

「 わあ 〜〜〜 ありがとう 〜〜 !! 」

 

ジョーは 頬を紅潮させる彼女を ほれぼれ・・・眺めている。

「 おい ボーイ? しっかりしろよ? 

 ばっちり彼女のハートをつかむのだぞ 」

「 あ  あ  ・・・ うん ・・・・ 

「 次の舞台には お前が花束、だぞ 」

「 う うん ・・・ あ フラン〜〜〜 一生懸命 見るからね! 

「 え?  ふふふ・・・ ホントにジョーって愉快なヒトね。

 ホント 皆さん〜〜〜 ありがとうございます  がんばります! 」

頼もしい言葉を聞いて < 観客 >達は楽屋を後にした。

 

「 我らがマドモアゼルは 気合いが入ったな。 」

「 ああ。 プロのアーティストの顔になった。 」

「 え そ そう?  いつもカワイイなあ〜〜って思うけど 」

「 ・・・ ボーイ お前 少々オメデタイぞ? 」

「 ま それだけ首ったけ ってことさ 

「 え そ そんな・・・ぼく達は別に〜〜 」

「 は。 今さらよく言うぜ 」

「 ・・・・・ 」

ぽんぽん ・・・ グレートがため息と共にジョーの背中を叩いてくれた。

 

「 ・・・ 皆 それぞれ ・・・ 思う方向に進んでおくれ ・・・

 全力で応援するぞ。 それが ワシのせめてもの罪滅ぼしじゃ ・・ 」

華やぐ彼らを遠くに見つつ 老博士の口から思わずこぼれた言葉は ― 

 

 

   月やあらぬ  春や昔の春ならぬ   我が身ひとつは元の身にして 

 

 

「 博士〜〜〜 はやく〜 客席に行きましょう! 」

ジョーがぶんぶん手を振っている。

「 どうぞ、 ご案内いたしますぞ 

グレートが慇懃に腰をかがめ 手を差し伸べる。

「 いい舞台になりそうです。 」

アルベルトが す・・・っと荷物を持ってくれた。

 

     ・・・ ああ ワシには このコ達が おるなあ ・・・・

 

ひゅるん。 春の風が 湿った気持ちを吹き飛ばしていった。

 

         春 や 春      アナタの 春 は  ? 

 

 

**************************     Fin.     ************************

Last updated : 04,16,2019.                back      /     index

 

 

************  ひと言  **********

すみません〜 体調不良が続き短かめになってしまいました★

えっと ・・・ 死んじゃった大センセに 哀悼と尊敬を込めて・・・!

皆さま 是非 生の舞台を観てくださいね〜〜〜